米国は養蜂が盛んで、一箇所に数百群も飼育している例もあります。ずらっと並んだ巣箱は壮観で羨ましい限りです。米国視察や、養蜂誌などで見る米国養蜂の盛況ぶりが、このまま日本でもそのようになるかといえば、そうではありません。
米国は国土が広く、手付かずの自然が多い上に、クローバーのような牧草の蜜源植物が豊富にあります。また、日本のように長雨はなく、養蜂に最適なのです。米国はまさに世界の養蜂国と言えます。
日本は野草の花や果樹の花もあるにはありますが、農耕地が多く、野草の咲き乱れる原野も多くはありません。かつまた、長雨もあり、すべては米国のような訳にはいきません。
小生は、日本で数百箱のミツバチを飼育する専業養蜂家の出現を期待しているわけではありません。むしろ、2、3十箱位を飼育して農家の副業とすることを勧めています。山間地や蜜源植物の豊富な場所では、一箇所に数十〜百群を飼育可能です。
一般的には2、3十から5、6十箱の飼育がよいです。その土地に不釣合いの多群を飼育しても失敗のもとです。あまり多すぎない数の飼育が結局は得策です。
専業養蜂家を志す人は、当初から最適な場所を見つけて、そこを本拠地としたら良いです。そして、巣箱の増加に伴い飼育場を増やしていけば良いです。農家の副業の場合は、その場所に釣り合いの取れる箱数を算定します。飼育可能蜂群数は以下をご参考ください。
都会の中心地 5箱まで
市街地 10箱まで
水田の多き地 20箱まで
畑地の多き地 30箱まで
山林に隣接する地 50箱まで
山間の村落 100箱まで
山および山中 100箱以上
これらは、あくまで目安に過ぎません。それぞれの土地で飼育調査をしてみないと正確な飼育可能蜂群数は算定できません。養蜂は蜜源植物に左右されますので、山間地でなくても、多群の飼育が可能なこともあります。養蜂場近辺に蜜源植物を栽培すると良いです。近隣にミツバチ飼育者がいる場合は、その蜂群数を差し引いて自分の飼育可能蜂群数を算定したほうが良いです。
上述のように、その土地、土地により飼育可能な蜂群数に限界のあることはお解かりいただけたと思います。気候の関係はどうですか?との質問をされる人がいますが、日本国中どこでも、養蜂可能です。昔から蜂蜜の生産で知られる紀州の熊野は年間を通して温暖な気候です。また信濃の木曾などは冬季はかなりの寒冷地ですが、蜂蜜の生産は紀州並みです。このように、地域による気候の違いは、ほとんど関係ありません。勿論、ミツバチの種類にもよります。
養蜂は主婦の方に向いています。ミツバチ飼育は細心の注意と穏やかな扱いが肝要です。乱暴な扱いを続けると、蜂は荒くなり、貯蜜も少なくなります。女性は注意細かく、心優しいのでミツバチの取り扱いに向いているのです。
養蜂は重労働ではありません。また、多くの時間を割く必要もありません。そんな訳で、米国等では女性の養蜂家が大変多いです。農家が副業収入を得るために、養蜂を主婦の仕事にすると良いです。また、分封時や秋のオオスズメバチ襲来時などでは、家にいる主婦なら対応が早く出来て良いです。
スタート時の注意
1)種蜂は2、3群を購入すると良いです。
早く成功しようと思って、何箱もの種蜂を購入するのは失敗のもとです。ミツバチは順調に行けば、数年で相当な数に増えます。経験を積まないうちに多群を持つと、充分な管理ができないまま失敗してしまいます。はじめは、2、3群を購入して、数が増えて行くまでに充分な知識と経験を得るのが良いです。そうすれば、内検・外検に手抜かりもなくなり、当を得た飼育管理ができるようになります。
養蜂というのは、多くの養蜂書を読んだり、養蜂講義を聴いたからと言って、習得できるものではありません。やはり、大事なのは経験です。
種蜂を1群だけ購入するのは、大変危険です。蜂王の死去、逃去、分封、餓死、越夏、スムシ、ダニ、オオスズメバチの襲来、越冬など養蜂には年間を通して危険なことがいっぱいです。経験不足のため万一、対応を誤ったときには、種蜂1群だけですと全てを失うことになります。失意のあまり養蜂を断念することになったりすれば、元も子もとも子もありません。
2)養蜂場は少しずつ完備していくのが良いです。
人の養蜂場を見て、このようにしたいと思っても短時間では無理です。数年をかけて、少しずつ完備していくのが良いです。はじめから、多群を持つなと前項で述べましたが、収蜜舎及び養蜂器具類など全てを完備してから、養蜂をスタートしようと思わないでください。これらのものは、必要に応じて揃えていけば良いです。必要最低限のものでスタートするのが経済的です。経験を積むと、自分に合った養蜂器具や、養蜂場完備の優先順位が解ってきます。
3)自分に合った巣箱及び巣枠を選んでください。
4)はじめたら、困難があってもやり抜いてください。
どんな事業でも成功するまでには、何回かの失敗はあるものです。養蜂も同じです。特に、スタート時には失敗をし易いものです。ちょっとした失敗くらいで、養蜂を諦めてしまうくらいなら、はじめから、やらないほうがましです。養蜂は他の事業に比べたら、初期投資はかなり小額ですので、万一失敗しても、もう一度挑戦してほしいものです。次に生かせば、まさに失敗は成功のもととなります。一度くらいの失敗で養蜂を諦めるのは、資金の無駄、それまでの経験の無駄です。踏ん張れば、結果は必ず成功となります。
5)養蜂は何もしないでいて儲かるなどと思わないでください。
昔は “ミツバチは放って置いても蜜を集めるものだ“ などと言ったものですが、今日は蜂蜜を採集するために、ミツバチを働かせ過ぎる傾向があります。養蜂は飼料を与える訳でもなく、重労働をする訳でもないのに蜂蜜が採集できます。ですが、養蜂は何もしないで、ただ儲かるだけの事業だなどと思わないでください。
養蜂は、確かに他の事業に比べたら資金も少なく、労力も少なくて済みますが、注意深い観察が必要です。養蜂の極意は一に観察、二に観察です。これに応じた飼育管理をすることが、収益を得ることにつながります。
養蜂は何もしないで、ただ儲かるなどという考えは間違いです。そんな考えでは、儲かるどころか、大失敗をすることになります。このことを胆に命じて欲しいと思います。
初心者の心得
1)第2年目後半から第3年目前半に要注意!!
養蜂初心者は第2年目の終わりから第3年目の初めにかけて、失敗することが多いです。今ある養蜂家の多くは、この時期に一度失敗したにもかかわらず、また立ち上がってきた人たちです。残念ながら、そのまま、諦めてしまった人たちも大勢います。
初年度1〜2群の種蜂を購入し、そのままにしておいても、たまたま順調に行って、その年又は翌年に分封があり、4〜5群になることがあります。すると、養蜂ってこんなものかと、わかったような気になってしまって、飼育法の勉強もしないでいると、大抵この秋から翌春の分封時期にかけて、あれよあれよと言う間に蜂群全てを失ってしまいます。その原因は餓死、分封取り逃がし、逃去などで、どれも飼育管理の基本中の基本のことばかりです。
この時期には巣箱も増加し、手をかけて益々拡大する時期なのに、失敗するのは管理不行き届きによるものです。この実態を知って注意を怠らなければ、この時期を乗り越えられます。
2)むやみに内検するな!!
巣枠式巣箱は巣箱を開けて内部を自由に見ることができます。初心者は興味本位で頻繁に、無用な内検をする傾向があります。勿論、内検は飼育管理において重要なことですが、毎日の様に巣箱を開けるのは良くありません。
巣箱を開け、巣枠を引き上げれば蜂たちは異常事態に緊張します。蜂たちの日常と労働は少大きく妨害されます。頻繁な内検は、貯蜜や蜂王の産卵にも影響を与えます。産卵少なければ蜂群は弱小化してしまいます。年間を通してどの時期でも、むやみに無用な内検をしてはいけません。要注意です。
3)無駄巣は迷わず除去せよ!!
分封群は巣盛り意欲大ですので、巣箱内の隙間などに無駄巣を造ってしまうことがあります。せっかく作った巣だから・・・などと、そのままにしておくと、後で飼育管理上邪魔になります。ですから、容赦なく、包丁などで切り取り、除去します。巣礎枠を挿入してあれば、無駄巣は防げます。
4)分封はそこそこに!!
ミツバチの自然分封は時には第4〜5分封まで起こります。初心者は蜂群数が大幅に増えたなどと喜んでしまいますが、実は自然分封は蜂群を弱小化させ、衰弱させてしまいます。ですから、第2分封以降はさせないで第1、第2分封群を強群に保つ方が良いです。第2分封以降は弱小群です。これら弱群を数多く保有するより、強群をいくつか保有する方が得策です。
人工分封するにしても、蜂群数ばかり多くしようとすると、上述のとおり結局は弱小群ばかりとなり上手くいきません。
5)巣枠間隔は正距に!!
ミツバチは巣碑間にブリッジを作り、部分的に連結することあります。これを防ぐためや、貯蜜巣碑を厚くして貯蜜量を多くするためや、巣碑枠で蜂をつぶさないためにと巣碑間を広げてしまうことがあります。広げればミツバチは益々、連結しようとブリッジを作ります。1枚の巣碑を作ってしまうことさえあります。もうこうなると、巣碑枠を1枚ずつ引き上げることさえできなくなってしまい、巣枠式巣箱の用をなさなくなってしまいます。
6)巣箱の掃除を怠るな!!
巣箱の底は汚れやすく、落ちた花粉や巣屑の中にスムシが発生したり、蟻なども侵入してきます。ミツバチは自分たちで巣箱内を常に掃除し、清潔にしていますが、時期によっては巣屑などが大量に巣箱底に落ちて、溜まってしまうことがあります。これを、掃除してあげます。巣箱内だけでなく、巣箱外部や周辺も快適にしてあげます。巣箱前に雑草が生い茂ったりすると、ミツバチの活動を妨げます。このような養蜂場は荒廃してしまいます。