ミツバチは自ら食料を採集し、これを貯蔵する昆虫ですが、時には人間が餌を与える必要があります。給餌が適切に出来れば建勢が上手く行き、収蜜量も増します。ですから、給餌は養蜂技術の中で最も重要で、必ず習得すべき飼育法の一つです。
初秋に逃去が多発することと、冬期に凍死が発生することは、日本蜜蜂飼育者の悩みの種です。この二つの難問は給餌を適切にすれば予防できます。
ミツバチの給餌に次ぎの二つがあります。
1.奨励給餌
これは、蜂を奨励して活動を盛んにするために行うものです。
2.救助給餌
これは、貯蜜の欠乏及び欠乏の恐れのある蜂群に餌を与えて欠乏を補うものです。
ミツバチの給餌の目的は以下の様に多々あります。
1.蜂児を多く育成させて蜂群を強群にするため
2.巣内の温度を高めて花蜜の濃縮を助けたり、蜂児を保護させるため
3.巣碑をもらせるため、
4.その他
ミツバチの給餌は目的によってやり方が違います。ミツバチの給餌はただ単に食料を与えるものではありません。目的に沿ったやり方で給餌をしないと、かえって蜂群に害となることがあります。
給餌の時期及び注意
蜜源植物が開花しているにも関わらず蜂の活動が活発でない時や、餌切れで今にも餓死しそうな時には、とにかく直ぐに給餌をします。通常の給餌の時期と注意は以下のようです。
1.早春の給餌
早春に給餌すると蜂群は活発になります。貯蜜の少ない群だけでなく、貯蜜が充分にある群も給餌すると良いです。もし、餌の欠乏している蜂群があったら勿論直ぐに給餌します。この場合は一度に多量の餌を与え出来るだけ早く巣碑に貯蜜させます。貯蜜の多くある場合は以下に記すように奨励給餌をします。
貯蜜が充分あるのに給餌をするのは奨励のためです。蜂の活動の活発化を促し、蜂王の産卵を促すためです。ですから、多量の蜜を与える必要はありません。毎日少しずつ与えます。毎日給餌していても貯蜜量が増える必要はありません。蜂は給餌されると活動的になり、巣内の掃除をしたり巣内の温度を上げたりし、そのために蜜を消費します。また、蜂王の産卵が促進されるので蜂児の成育のためにも蜜を消費します。
このように、毎日給餌しても、ほとんど育児に、その分の蜜が消費されます。その結果、働き蜂が増え、流蜜期には消費以上の蜜を貯え養蜂家に報いてくれます。
早春の給餌を開始する時期は各地域の寒暖により、かなり違いがあります。また、各地域の主要蜜源植物によっても違ってきます。菜の花が多い地域では早く給餌を開始して、菜の花は開花に間に合うように早く強群を作ります。寒冷な日が続く時は、給餌の開始時期を延期します。給餌を開始しても、途中で寒気がやって来たりしたら、一旦中断して温暖な日を待ちます。寒冷の日に給餌をすると蜂が下痢を起こす恐れがあります。
一旦給餌を開始したら、寒冷以外の理由で中断してはいけません。建勢が上手く進みません。また、あまりにも多くの給餌をすると巣碑が貯蜜圏のみとなり産卵圏を圧迫してしまいます。結果、建勢を進めようと給餌したのに、逆に建勢を妨げてしまうことになります。外から充分の花蜜を運び入れるようになったら給餌は終了します。
2.真夏の給餌
梅雨時の長雨で蜂が集蜜活動ができなくなった時や、7〜8月の蜜源植物の開花が途切れる時期には巣箱内の貯蜜が空っぽになることがあります。特に5月末以降の分封群は元々貯蜜不足ですから要注意です。西洋ミツバチはこの時期には通常18〜20枚の強群となっていますから貯蜜の消費も多く、蜜源植物の開花が途切れると途端に餌不足となります。ほとんどの蜂群は夏期には給餌が必要です。
夏期に給餌をして蜂の英気を盛んにしておけば、秋期の蜜源植物が開花した時に盛んに集蜜活動をして越冬に心配がなくなります。夏期に給餌を充分にして、秋期が来るまで必要な貯蜜をします。あまり濃い餌を多量に与えると、巣房内で糖分が結晶することがありますから要注意です。
蜂は貯蜜が欠乏すると労働意欲をなくし、外に蜜源植物の開花があっても訪花しなくなります。特に、夏〜秋期には、その傾向があります。しかし、給餌をすれば同時に花蜜も運び込むようになり、貯蜜も多くなります。
3.越冬準備期の給餌
10月下旬から11月初旬の越冬準備期になって、もし貯蜜の少ない蜂群があったら給餌します。この時期の給餌には特に注意が必要です。もし、いい加減な給餌したら、給餌しないほうが良いくらいのダメージを蜂に与えてしまい、越冬が危うくなります。
蜂が越冬するのに充分な貯蜜がない場合は、なるべく多量の餌を一度に与え、一週間程度の短期間で給餌を完成させることです。一週間以上になってはいけません。その後、3〜4日間は少量ずつ給餌します。こうすると、早く蜜を熟成し蜜蓋をかけます。完熟し蜜蓋をかけた蜜が多いと越冬が安心です。
越冬準備期の給餌は、なるべく外に蜜源植物の開花がある時期にして、給餌の糖液と花蜜と混ざる様にします。
越冬準備期に長期間の給餌をするのは良くありません。長期間給餌していると蜂王は産卵を促進し、育児労働が増えますから貯蜜の消費も多くなります。また、寒冷な時期の育児労働は働蜂に重労働となり短命となります。育児には高温が必要であり、この高温を生ずるために貯蜜の消費がされ、働蜂は過労となり、春を待たずして寿命が来てしまう蜂が多発します。ですから、いくらかの新蜂の誕生と育児のために、多くの越冬蜂を犠牲にするようなことになってはいけません。このような蜂群は越冬明けに一握りの弱小群となってしまいます。
4.冬期の緊急時の給餌
冬期に餌切れを起こし給餌をしなければならないのは、飼育の失敗と言えます。時には、思わぬ寒気の到来で貯蜜を消費し蜂が餓死に瀕する場合もあります。そんな時には、とにかく給餌をします。温暖な日に多量の餌さを与えます。寒気が強いと給餌しても蜂が吸引しめせんから、巣箱を室内に要れ、巣門を閉じ、温度を10℃以上にして給餌します。温暖な日に室内から出して、元の場所に戻します。
餌の調合
ミツバチに与える餌は、その巣箱から採集した蜂蜜を薄めたものが最良ですが、結晶している時は少量の水を加え加熱して良く溶かし、冷ましてから給餌します。変色や酸化した希薄蜜は砂糖液より劣り、時には蜂に害があります。
上質糖を溶かして餌を作るのが一番実用的です。氷砂糖又は上白糖600gに熱湯約500ccを加え、良く攪拌して溶かします。火にかける時は2重鍋を使い、外鍋にお湯を、内鍋に砂糖とお湯を入れます。こうすれば、砂糖を焦がす心配がありません。
砂糖液に少量の食塩を加え、良く攪拌し完全に溶けたら、良く冷ましてから給餌します。上記の砂糖液に、その巣箱から採集した蜂蜜を約200cc加えるのも良いです。
網ザルに漉し布を敷き、この中に砂糖を入れ熱湯を注いで溶かすのも一方法です。
上記は早春及び真夏の給餌用です。越冬用及び冬期の緊急時用には、これより水量を1割程度少なくして濃度を上げたものを給餌します。巣内で蜜濃縮のための水分蒸発の労力軽減のためです。この時期には育児のために必要な水分も減少していますので、希薄な餌を与えると水分蒸発のために巣箱内の湿度が上がり良くありません。
濃度の濃い餌にその巣箱から採集した蜂蜜を2、3割加えると、巣房内での糖分結晶を防げます。
花粉はミツバチの育児に不可欠の食料です。建勢時期に蜜源植物の開花が少なく花粉が不足する時には、大豆粉を主原料とした代用花粉を与えます。
給餌の仕方
1箱だけの蜂群の給餌は、他所から盗蜂が来なければ、巣門近くに餌を入れた皿などを置いても可能です。多群を保有している時は、巣門近くに餌を置くと盗蜂が起こり、闘争により犠牲者が出ます。多群の場合は必ず巣箱内で給餌します。単箱の場合は給餌器を巣碑枠の一番外側に入れます。継箱を載せ給餌器を入れても良いです。
巣門挿入式の給餌器は寒冷時期の給餌には、巣箱を開けないで給餌出来て良いです。一般的には、巣枠式給餌器が使用されます。
給餌器がない場合は以下のようにしたら簡単に給餌できます。コップに餌を入れて平らな皿で蓋をしたら、一気に逆さまにします。餌が流れ出てこないことを確認したら、つま楊枝1本をコップと皿の間に挿入します。こうしても、空気の圧力のため餌は流れでません。わずかな隙間から蜂は餌を吸引します。餌もこぼれず、蜂も溺死しないで給餌できます。
給餌する時は、蜜源植物の開花が少なく充分な集蜜が出来ない時期です。ですから、給餌をすると盗蜂が発生します。
盗蜂を起こさせないためには、給餌を夕方から始めるのが良いです。夕方なら、集蜜活動のための蜂の飛行が終わる時ですから、盗蜂を発生させることがありません。
蜂は給餌器の餌を吸引して巣房に運びます。大抵翌朝までには、給餌器が空になっています。もし残っている場合は日中に盗蜂が集まって来る可能性がありますから、一時的に巣門を閉じて、餌を吸引させるのも一方法です。日中、弱小群に給餌する場合も、この様にすれば良いです。
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